建築は空と大地のあいだに @大阪万博

目次
半世紀ぶりに蘇る“万博のシンボル”
会場に入ると、まず空に浮かぶような藤本壮介の「大屋根リング」が視線を奪う。
光を受けながら緩やかに弧を描き、歩く人々を包み込みつつも必ずその先に空をのぞかせる。
半世紀前、丹下健三が設計したお祭り広場の大屋根も、太陽の塔が突き抜ける円形の開口を持ち、未来へと開かれた象徴であった。規模は異なれど、今回の大屋根リングの円もまた、万国共通の空への祈りを宿した記号として重なり合って見える。
大地と森を象徴する「ウズベキスタン館」
その中で、今回特に印象に残ったのがウズベキスタン館とウーマンズパビリオンである。二つの建築はアプローチも造形もまったく異なるが、それぞれが国や思想を背負い、来場者に強い体験をもたらしていた。
ウズベキスタン館は外観がひときわ美しい。基壇部はレンガと粘土で形づくられ、大地や根を思わせる重厚さを湛えている。それは同国の歴史的都市に残る建築遺産を思い起こさせ、文化の基層を静かに表現していた。その上に立ち上がるのは、高さ8メートルの木造彫刻群。規則正しく林立する柱は森を象徴し、地上から見上げるとまるで「木の神殿」のように映る。
屋上に設けられたテラスは「知識の庭」と名付けられ、伝統的な寺院や宮殿の形式を参照した空間となっている。木々の間を抜ける風や光の揺らぎは、来場者を自然と瞑想的な心境へと誘う。内部には、安藤忠雄がウズベキスタン国立美術館の設計に参画していることを紹介する展示もあり、異国と日本の建築文化を結ぶ橋がそこに確かに示されていた。
光と水が響き合う「ウーマンズパビリオン」
ウーマンズパビリオンは、ドバイ万博からのリユースを土台としながら、新しい空間として生まれ変わっていた。外郭を覆う「KUMIKOファサード」が光と影の柔らかな膜をつくり、庭に植えられた木々と呼応するように来場者を包み込む。
内部では、オーバルに開いた天井から光が射し込み、暗いテーブルの上に広がる水面がその光を受けてかすかに揺れる。黒い小石が散りばめられたその場は、言葉に頼らずとも水と光と石が響き合い、人々を集わせる力を持っていた。形を移し替えながら、新しい体験を呼び込むことに成功している点に、設計者・永山祐子の感性が鮮やかに刻まれている。
過去と未来を重ねる建築の記憶
こうして歩いていると、過去と未来が重層的に響き合っていることに気づく。ウズベキスタン館の大地と森、ウーマンズパビリオンの光と水、そして会場全体を覆う大屋根の円。
1970年の大屋根が切り取った空の円環と、今回のリングが描く空の円弧は、時代も規模も異なりながら、共に「開かれた世界」の象徴として人々を見上げさせる。建築は仮設であっても、空へ向かうその眼差しが、普遍の記憶として私たちの心に刻まれるのだ。
作者プロフィール
森本初雄
建築家 一級建築士
株式会社moKA建築工房 代表取締役
愛知産業大学建築学科 非常勤講師
名古屋モード学園インテリア学科 非常勤講師